青磁獅子形装飾香炉と青磁透彫七宝香炉 : 姜 京 男

1123年、徐兢(生没年未詳)は、宋・徽宗が派遣した国信使一行のひとりとして、1ヶ月あまり高麗に滞在しながら公式日程を遂行しました。この時、高麗の様々な場所を巡り、高麗の面貌を記録したのが、まさに『宣和奉使高麗図経』です。この本の「器皿」部分には、高麗の多様な器が紹介されていますが、とくに「陶炉条」の内容が興味深いです。

「狻猊出香も翡色である。上には獣が乗っており、下には蕾が開いた蓮花文様が支えている。様々な器のなかでこの品だけが最も精巧で優れている。残りは越窯の古い秘色や、汝州で最近生産される陶磁器とほとんど類似している (狻猊出香 亦翡色也 上爲 蹲獸 下有仰蓮以承之 諸器 惟此物最精絕 其餘 則越州古秘色 汝州新窯器 大槩相類)」

上の内容は、高麗時代陶磁工芸の水準を示す重要な史料と評価されています。「狻掜出香」は獅子が装飾された香炉を言いますが。当時徐兢は蓮花形香炉の蓋上に獅子が装飾されたものを見て、このように描写したものと見られます。色は翡色で、たいへん優れた技術で作られたと品評されています。

現在まで上の記録と符合する品のうち、最も類似する品は、国立中央博物館所蔵の青磁獅子装飾香炉(国宝第60号)でした。この香炉は、蓋の上に獅子が乗っており、香をたく胴体には3つの鬼面形の脚がついています。したがって胴体から香をたくと、蓋に装飾された獅子の口を通して、香が出るよう作られています。

獅子の二つの耳は、下に垂れており、耳は上がっており、僅かに広げた口には歯が整然と並んで露出しております。尻尾は、背にぴったり付いて安定感を与え、足もまた猛獣のものとして遜色がないよう、頑強に表現されています。とくに胸に鈴を掛けて、右足で宝珠を掴んでいる姿は、高麗時代に作られた獅子のなかでもたいへん珍しい例に属しています。

最近泰安馬島の近くから同一形態の獅子香炉2点が引き揚げられ、注目を集めています。 顔形と全体的な姿が、言い知れぬ調和をなしており、この香炉と異なりますが、このような発見により高麗時代に多様な獅子装飾香炉が愛用されたことがわかります。

 青磁獅子装飾香炉、高麗12世紀、高さ26.3㎝、国宝 第60号 青磁獅子装飾香炉、高麗12世紀、高さ26.3㎝、国宝 第60号

青磁獅子装飾香炉の一部 青磁獅子装飾香炉の一部

このほかにも高麗時代には多様な形の青磁香炉が使用されました。そのなかで青磁透彫七宝文香炉(国宝第95号)は、高麗青磁、さらに高麗時代の優秀な工芸文化を確認できる代表的な作品に数えられています。

この香炉は、透彫された球形の蓋と蓮花形の胴体、そして3匹の兎が支えている板形の支えから構成されていますが、互いに異なる形の造形物が有機的に結びつき、ひとつの完成度の高い造形物に昇華しています。まず蓋を見ると、全面に七宝文様を透彫し、文様の交差地点には小さな点を白象嵌して装飾性を高めました。胴体には花弁のスタンプをひとつひとつ押して、パッと咲いた蓮花をつくり、花弁には細く葉脈を表現し、繊細さを加えています。

とくに香炉の支えを支えている可愛らしい兎3匹は、香炉の造形美を高める決定的な役割をしています。小さな造形物ですが、兎の眼に黒い鉄絵の点を加え、英明な目をつくっており、それにより青磁の兎は生命力を得ています。この香炉は、陰刻、陽刻、透彫、堆花、象嵌、貼花、象形など全ての装飾技法が動員されて作られた華麗なもので、12世紀に製作された絶頂期青磁の姿をよく見せています。

青磁透彫七宝文様香炉、高麗12世紀、高さ15.3㎝、国宝第95号 青磁透彫七宝文様香炉、高麗12世紀、高さ15.3㎝、国宝第95号

 青磁透彫七宝文様香炉の一部 青磁透彫七宝文様香炉の一部

このように高麗時代に多様な青磁香炉が使用されたことは、当時の人々が香を近くに置いて、香文化を楽しんだ証拠と見ることができます。香をたく目的は次の3つに要約できます。第一に害虫から人体を保護し、第二に衣服の匂いと虫を防ぐこと、第三に宗教儀式や儀礼を行う時に神聖な雰囲気を醸し出すことです。香をどのような方式でたいたのか、具体的な資料はほとんどありませんが、いくつかの記録を通して高麗時代の人々が共有した香文化を推し量ることができます。

官僚であり、文人であった李奎報(1168~1241)は、『東国李相国集』にこのような状況を示すいくつかの文章を残しました。寂しい庵に香炉が置かれたのんびりとした風景を描写した内容ですが、香をたきながら釜に茶を注んで飲み、みかんを食べる状況を描写しています。また酒の席で沈香の煙のために、歌いながら喉が渇くという内容もあります。 このような記録を通して、公式的な儀礼や宗教活動だけでなく、日常生活において余暇を楽しむ時、香をたく行為が自然なひとつの文化として定着していたことが分かります。完璧な造形と翡色の調和で完成された青磁香炉は、実用性に加えて、鑑賞容器という美的成就までなした高麗青磁の絶頂といえます。