本展は日本のアジア民族造形文化研究所長である金子量重(かねこ かずしげ、1925-)氏が国立中央博物館に寄贈したアジア各地の民族造形品の中で、木漆工芸関連の約40点を選び、構成したものである。金子量重氏は、アジアの様々な民族の歴史と生活像が刻まれた造形文化の調査・研究・収集に生涯を捧げ、40年間収集した1,035点の遺物を、2002年から2005年にわたり、国立中央博物館に寄贈した。このような寄贈遺物を中心に、「アジアの漆器(2010年)」、「土に刻まれたアジアの暮し(2011)」などの展示が開催された。また、今年は独特な木の文化を持つアジアの人々の暮しに照明を当てる展示「アジア、木の物語」が開催されている。 生活工芸品、神像、仏教彫刻、仏教供養具、経典箱、朱漆器および螺鈿漆器など、様々な工芸品と経典などが展示されている。
新生児用浴槽
マレーシア、ダヤク(Dayak)族、長さ 108cm
頑丈であることから鉄木と呼ばれる「ボルネオアイアンウッド(Borneo ironwood)」が素材となっている。浴槽の横には厄除けの動物の神像が足で浴槽を捕まえる形になっている。浴槽の外側の人物像は、耳が長く垂れているのが特徴である。ダヤク族の女性は、成人式や結婚式などの記念日には数回にわたって重いピアスをするため、耳がかなり垂れてくる。垂れた耳は美人の条件であり、徳、威厳、長寿の象徴でもある。
穀神像
インドネシア・バリ族、高さ20.5cm
アジアは自然に基づいた信仰はもちろん、ヒンズー、仏教、イスラムなど様々な宗教が共存する地域である。穀神像は農業社会において豊穣を願う祝祭に祀られる代表的な神である。
木彫樹霊像文鼓形呪医薬筒
インドネシア・バタク(Batak)族、19世紀、高さ26.5cm
バタク族は亡くなった祖先、動植物、延いては無生物にも魂があり、男性の司祭がそれらを支配し、また誘惑することができると信じていた。様々な方言があり、固有の文字体系をもって独特の医術と製薬法に関する知識を記録した。
木彫獅子装飾
ミャンマー・ビルマ族、19世紀、高さ44.2cm
アジアでは獅子と象は力と権威を象徴し、厄除けと仏法の守護の存在として信じられ、様々な芸術品の素材となった。
螺鈿漆器
ベトナム、19世紀、幅29.6cm / 高さ3.0cm
燦爛たる光の芸術である螺鈿漆器は、貝殻の内側や真珠層の部分を漆器などに嵌め込む手法が使われる。今回、展示されるベトナムの漆器には、四霊、十二支、歲寒三友、故事に登場する人物が表現されており、中国的な素材をベトナム人がどのように受け入れ、造形美術に反映したかを窺うことができる。
黒漆朱漆金彩盒
カンボジア・クメール族、高さ35.5cm
東南アジアの漆工芸では、沈金技法、タヨ(tha yoe)、フマンジセチャ(hmanzishehca)、ユン(yun)など、独特で、かつ多様な手法により装飾が施されてきた。中でも沈金技法は、塗面に文様を彫り、生漆を刷り込んだ後、乾燥する前にそこへ金・銀の箔や粉を埋める方法である。この手法には高価な金・銀などが多用されるため、王室の装飾や宗教の祭器などに限られていた。