儀軌とは、朝鮮時代(1392~1910)に王室と国で行われた儀式や行事の準備・実施過程を文字と絵で記録したものです。朝鮮時代初めの15世紀から制作されており、2007年にユネスコ世界記録遺産として登録され、その歴史的・文化的な価値はさらに評価されています。 本展覧会は、江華島の外奎章閣(朝鮮王室の文書館「奎章閣」の別館)に保管していた儀軌が1866年にフランス艦隊によって略奪されて以来、145年ぶりの韓国への返還を記念するもので、外奎章閣儀軌297冊を6部の構成でご紹介いたします。 1部では、儀軌の概念や構成について説明します。正祖代(在位1776~1800)に江華島の行宮に外奎章閣(王室の文書館である「奎章閣」の別館)が完成され、御覧用の儀軌など王室の重要史料を安全に保管する内容についてまとめられています。さらに、御覧用と分上用(主な役所や地方の史庫にそれぞれ保管するため、約5~9部を制作したもの)の儀軌が並んで展示され、表紙や本文、図説を見比べることができます。 <江華府宮殿図>、19世紀後半、国立中央図書館蔵 江華府行宮周辺の殿閣を描いた4幅の地図で、 第2幅目に御覧用の儀軌を保管する外奎章閣の建物が 表現されています。 1849年(朝鮮王朝25代目の国王、哲宗の即位年) (左) 御覧用 朝鮮王朝24代目の国王、憲宗のご崩御の後、6月から11月まで景陵(憲宗のお墓)作りの過程をまとめた儀軌2冊のうち上巻に当たります。緑色の絹地で表紙を包んだ後、黄銅の辺鉄を5つの釘で固定し、釘の下に丸い菊花紋様を施して製本したものです。 辺鉄の中央には丸い取っ手がついてあります。 (右) 分上用 ソウル大学 奎章閣韓国学研究院蔵御覧用の儀軌とは異なって、紅布で包まれた表紙に辺鉄・釘・取っ手とも錬鉄で作られ、3つの釘で固定されています。 2部から6部までは、外奎章閣儀軌のテーマ別で展示されています。 2部のテーマは「王権と統治」で、儀軌に見られる朝鮮時代の統治理念を理解するため宗廟祭礼、親耕礼(国王の御田植え)、録勲(功臣勲功の記録)などの儀軌を展示しています。特に、唯一本の「保社録勲都監儀軌」(1682年、粛宗8年)は、ハングル文字が記された希少本として注目されています。 <保社録勲都監儀軌>、1682年(粛宗8年) 1680年(粛宗6年)許堅などによる謀反を防いだ家臣に、功臣の称号を与える過程が記録されています。 3部のテーマは「国の祝事」で、王室の婚礼や冊封、尊号など儀式に関わる儀軌を紹介しています。朝鮮時代には儀式や行事が行われるため臨時官庁の「都監」を設置し、その下にいくつかの組織を設け国のお祝い行事を行いました。儀軌を通じて、儀礼に必要な品々目録とその材料、職人名簿、図説、儀典行列の様子を描いた「班次図」がご覧いただけます。
<孝章世子冊礼都監儀軌>御覧用、1725年(英祖1年) 1725年(英祖1年)3月、孝章世子を王世子(世継ぎ)に冊封した様子を記録したものです。 御覧用の儀軌のため高級な草注紙を用いて、赤い線で縁取りが施されています。 繊細な筆遣いと様々な顔料を使って、鮮やかな色で表現されています。
<孝章世子冊礼都監儀軌>分上用、1725年(英祖1年) 御覧用は上・下2冊に分かれていますが、 分上用は一冊でできています。 判を押して繰り返される人物を配置し、 色の鮮やかさも完成度も御覧用に比べてかなり劣ります。 4部のテーマは「王室の葬儀」です。朝鮮王室の儀礼の中で最も重大な儀礼は死に関わる儀式です。特に、国王と王妃の葬儀は国葬で、臨終から葬儀の準備、お墓の造成、葬儀の行列、三年の喪における祭祀(法事)など、すべて厳しく盛大に行われました。国葬都監、殯殿都監、山陵都監の儀軌が展示されます。 5部のテーマは「追悼と記憶」で、三年の喪が終わった後、霊殿の神主を宗廟に祀る儀式の「祔廟」、亡くなった国王と王妃へ生前の事績を称えて贈る諡号、国王の遺影(肖像画)の制作など、朝鮮時代において先王を追悼する方法について紹介します。 最後の6部では、丙寅洋擾(1866年)から現在に至るまで、外奎章閣儀軌が返還されるまでの道のりを振り返ります。丙寅洋擾に参戦したフランス海軍ジュベールの記録などに関わる西洋書も多数展示されます。
<綏嬪徽慶園園所都監儀軌> 1822年12月から1823年3月まで、正祖の側室の顯穆綏嬪朴氏(1770~1822)のお墓である徽慶園を造成した内容について記録されたものです。この儀軌は上・下2冊に分かれ、上巻は1993年9月に韓国を訪れたフランスのフランソワ・ミッテラン 元大統領から直接引き渡されたもので、下巻は2011年に外奎章閣儀軌296冊とともに返還されたものです。
<L'ILLUSTRATION、JOURNAL UNIVERSEL> 1867年、明知大学 LG蓮庵文庫蔵 丙寅洋擾に参戦したフランス海軍ジュベール(M.H.Zuber)が このほか、特別コーナーの「粛宗の生涯と儀軌」では、粛宗(在位1674~1720)の生涯に関わる外奎章閣儀軌を展示し、さらに「儀軌ハイライト」では、8点の外奎章閣儀軌の展示を通じて、儀軌の時期別の変化と特徴が分かります。なお、入館者の効果的な展示鑑賞と理解のために、映像メディアを積極的に取り入れました。
<粛宗仁顕后嘉礼都監儀軌>1681年(粛宗7年) 粛宗が仁顕王后を継妃として迎えた婚礼の儀式について記された儀軌です。 本特別展を通じて、外奎章閣儀軌の重要性と芸術的価値、そして返還されるまでの各位の尽力を十分感じ取っていただくと共に、国立中央博物館は外奎章閣儀軌に対する調査と研究をさらに深め、今後様々な分野で活用できるよう努めて参りたいと思います。