宝物になった高雅な青磁雲鶴文梅瓶 :徐 幽 梨

この梅瓶は、新たな国宝と宝物を紹介した「先人たちの心、宝物になる(2017年5月13日~7月9日)」に展示された作品です。2015年に宝物に指定された雲鶴文梅瓶は、展示された50件の宝物のうち唯一の青磁で、展示会場の一角で美しい姿を披露しました。どのような点が私達の心を掴んだのでしょうか。そして、どのような美的価値のために宝物になったのでしょうか。また宝物はどのように指定されるのでしょうか。

 《青磁雲鶴文梅瓶》、高麗・12世紀後半~13世紀、高:30.0㎝、宝物第1869号

《青磁雲鶴文梅瓶》、高麗・12世紀後半~13世紀、高:30.0㎝、宝物第1869号

流麗な梅瓶の姿態

この作品は、口が小さく、肩の線が豊満な典型的な高麗青磁梅瓶です。梅瓶は、高麗時代初期から作られ始め、12世紀に特有の美しい形を持ちました。13世紀になると梅瓶がより大きくなり、前の時代よりも屈曲のあるS字形を成します。梅瓶は、朝鮮時代に入ると自然と消えます。このように梅瓶は、時期ごとに形の変化がよく表れる高麗青磁を代表する器種です。梅瓶は、文様の無い無文をはじめとして陰刻、陽刻、象嵌、鉄絵、辰砂など多様な技法で文様を描き込み、製作されました。
この梅瓶は、一般的に高さが30~40㎝の高麗時代梅瓶と比べて小さく、端雅な印象を与えます。 盤口形の口縁に短い首、広がった肩を持っており、優雅なS字曲線の形状が目に入ります。 量感ある肩は、適当な緊張感を与え、胴体の下に行くに従って狭まる曲線は、自然です。底部に至ってやや反転する姿は、携帯的な安定感を与えます。このように美しい形を作ったのち、精巧な象嵌文様を入れました。高台内側をくり抜き、接地面に黒い砂が混ざった耐火土目を付けて焼きました。梅瓶全体に青色を帯びた透明な青磁釉を比較的厚く施釉しており、釉薬は光沢があります。このように端正な形と澄き通った翡翠色の釉色、精巧な象嵌文様の美しい構成は、この梅瓶が宝物に指定された理由のひとつです。

 梅瓶の高台

梅瓶の高台

象嵌で表現した美しい鶴と雲

高麗青磁が成した業績のひとつとして、美しい翡色と高麗だけの象嵌技法を挙げられます。象嵌技法は、赤土と白土を胎土に入れて文様を表現するもので、土の種類によって膨張率が異なるため、精密さが要求される水準の高い作業です。この梅瓶の文様は、まさにこのような象嵌技法で表現されました。
口の部分と底の部分には、黒象嵌で雷文を入れました。最上部分と下部分に入れたこの文様帯は、綺麗に処理されており、梅瓶の端正な印象を与えるのに一役買っています。胴体には、青い釉色を空に見立て、雲の間をたゆたう鶴の姿を描き入れました。十分な余白を設け、鶴と雲を配し、涼やかながらも叙情的な印象を与えます。鶴は、その姿ひとつひとつが異なります。首を回して水平に飛んでいる姿、首を立てている姿、下に降りる姿、上に上がる姿など多様な姿態を見せています。まるで互いに対話するかのような印象を与え、律動感が感じられます。ここに嘴と目、羽の一部と足を黒象嵌で表現し、ポイントを与えています。 白黒の象嵌技法の流麗な処理が目に入る部分です。

 梅瓶に象嵌された鶴

梅瓶に象嵌された鶴

古代から用いられた鶴文様は、高麗12世紀翡色青磁の製作と共に磁器に本格的に描かれ始めました。鶴は実際に存在する鳥ですが、神秘的で高雅な姿態が特徴です。道教においては神仙が乗って空を飛ぶ鳥として知られており、隠遁者の姿にも比喩されます。空を飛ぶ神秘的かつ霊的な存在と考えられ、千年長寿の意味で吉祥文または十長生のひとつとして好んで用いられました。澄んだ白色に長い首と足、優雅な姿態に漂う瑞気は、このような意味を込めるのに十分です。
雲は、キノコ形で上を向いていて、全体的に上昇する印象を与えています。以前より太陽、月、星、風などと共に神聖視されてきました。農耕生活をしていた人々にとって雲は、重要な意味を帯びており、長寿と吉祥を表しています。このような理由で高麗青磁だけでなく、古代の金属器、古墳壁画などにも頻繁に登場します。このように雲と鶴を表現した雲鶴文は、いずれも良い意味を持っています。長寿を意味すると同時に神々しさを表象しています。同時に全体的に余白を設け、爽やかな空間感を感じさせ、高麗人の卓越した美感を見せています。神仙になろうとしていた高麗人の心を込めたものではないかと思います。雲と鶴は実際に存在するものですが、このように様々な象徴性が溶け込んでいます。精巧な象嵌文様のずば抜けた構成、そのなかに込められた高麗人の心想を感じられる美しい作品です。

宝物に指定されるまで

それでは、宝物はどのような過程を経て指定されるのでしょうか。有形文化財のうち国家指定文化財である国宝と宝物は、文化財委員会の審議を経て文化財庁長が指定します。文化財委員会の調査報告書を検討し、指定されるだけの価値があると判断されれば、文化財委員会の審議前にその内容を官報に30日以上予告しなければなりません。国宝と宝物を扱う動産文化財分科委員会は、2ヶ月に1回ずつ定期的に開催され、指定するかしないか検討および審議します。国家指定文化財の指定基準および手順は、文化財保護法施行令第11条、第17条に明示されています。まさにこのような過程を経てこの梅瓶は、宝物に指定されました。

文化財委員は、この梅瓶を「高麗時代中期に製作された典型的な梅瓶で、器形、釉色、文様、焼成状態、保存状態など様々な面で優秀な面貌をもつ最上級の青磁」と評価しました。類例が比較的多い雲鶴文を刻んだ青磁のなかでも爽やかな空間感と卓越した文様構成、そして翡翠色の釉色が調和をなし、その美が最大限に発揮されている点でも目を引く作品です。さらに傷も殆ど無く、保存状態も良好です。このように総合的にその価値が認められ、国家指定文化財、宝物に指定されました。文化財委員会の会議資料および指定予告は、文化財庁ホームページに公開されています。単純に美的価値だけでなく、私達の文化財の指定理由とその過程を知ることは作品を鑑賞するもうひとつの楽しみと言えるでしょう。