百済人の精神性がにじみ出ている8つの文様塼 :李 炳 鎬

百済美術の特徴は穏やかで柔らかく洗練されていると言われます。百済の瓦や塼に見られる文様は同時代の他国の文様と比較してもはるかに整って洗練されており優雅さを感じさせます。その中でも日帝強占期に扶余外里で発掘された8種類の文様塼は特に注目されます。
ここで発見された文様塼は全部で8種類あり、山水文塼(2種)、鬼面文塼(2種)、蟠龍文塼、鳳凰文塼、蓮華文塼、蓮華雲文塼などがあります。それぞれの文様塼は大きさと厚さが一定で一辺の長さが28〜29センチメートルの正方形であり、厚さは4センチほどを測ります。塼の四隅には四角形の抉りがありますが、これは上下左右に文様塼をつなげるために別の何かをはめ込むために作られた痕跡と考えられます。そのように見るとこの文様塼は今日の歩道のブロックのように床に敷くために使われた敷塼ではなく、壁を飾る壁塼である可能性が高いと考えられます。

文様塼の分類

扶余外里で出土した8種類の文様塼は大きく2つのグループに分けることができます。 Aグループは山水文塼と鬼面文塼のように2種類の文様同士をセットにしているグループです。このグループの文様塼は正方形の内部いっぱいに文様を配置していますが、下段両隅には山形文様を二等分しています。このように二分された山形文様は2つを再度合わせると1つの山形文様をなします。

 山水文様と鬼面文塼の様子(2種類の文様がセットになっており、2枚を合わせて置くと下部の山と波の文様が連続します。) 山水文様と鬼面文塼の様子(2種類の文様がセットになっており、2枚を合わせて置くと下部の山と波の文様が連続します。)

 4種類の文様塼を合わせると1つの花文をなします(蟠龍文、鳳凰文、蓮華文、蓮華雲文)。 4種類の文様塼を合わせると1つの花文をなします(蟠龍文、鳳凰文、蓮華文、蓮華雲文)。

Bグループは鳳凰文、蟠龍文、蓮華、蓮華雲文が施されたもので、四角形の中に円形の連珠文を巡らせ、その中にそれぞれの文様を刻み込んだものです。文様塼の四隅には四等分された花文を入れました。4枚の文様塼を合わせると別の花文があらわれるようにあらかじめ設計し、文様の連続性を強調したものです。

瓜二つの文様塼

ところで、2種類の鬼面文塼は見れば見るほど似ています。両作品とも両腕を広げて立っている風変わりな姿に口を大きく開けた顔と身体表現、帯金具の形までほぼ同じです。違いがあるとすれば一方は鬼神の足下が蓮華文で装飾されていて、もう一方は奇岩怪石と水が流れる様子が演出されている点です。したがって、前者を蓮華座型、後者を岩座型と呼びます。

蓮華座型 蓮華座型

岩座型 岩座型

今日のようにコピー機や3Dプリンタもない時代に、どうすればこのように同じような形のものを作ることができたのでしょうか?この文様塼が初めて発掘されたとき、蓮華座型鬼面文塼にある鬼神の胴体部をそのままにして下半部の台座部分のみ変えて岩座型鬼面文塼を製作したのではないかと推定されました。その根拠として岩座型が蓮華座型よりも文様が若干鮮明である点が提示されました。このような主張は蓮華座型用の木製の型を再加工して岩座型を形作ったことを示しており、これを一般的に「改笵」と呼びます。
では、果たしてこの2種類の鬼面文塼は本当に改笵を経て製作されたのでしょうか?先ほど述べたように2つの塼に刻まれた鬼神の形は台座を除くとほとんど違いがありません。その大きさも28〜29.4cm、厚さ4〜4.3cmの範疇にあります。この程度の誤差は同じ型(同笵)で作られた塼や瓦を焼く際に生じる収縮率によってはよく発生するものです。したがって、ひとまず2つの文様塼は同じ文様を持つ型で作られた可能性があると言えます。
この点をより確実に述べるためには型に残された溝、つまり笵傷が一致するかを細かく比較する必要があります。笵傷とは塼を成形する過程で木製の型を複数回使用していると、弱い部分がすり減ったり摩耗が生じるようになることを言います。下の写真のように蓮華座型の場合、笵傷があまり鮮明ではありませんが、岩座型の場合、より明確に確認できます。これは蓮華座型と岩座型が同じ型で成形された同笵品であることを物語っています。

鬼面文塼に見られる笵傷(左・蓮華座型、右・岩座型)

鬼面文塼に見られる笵傷(左・蓮華座型、右・岩座型)
どちらを先に作ったのだろうか?

では、どちらが最初に作られたものであり、どちらが改笵後のものでしょうか?先に述べた通り、蓮華座型より岩座型の文様がより鮮明である点は重要です。その他にも岩座の範囲が蓮華座よりもさらに広く文様の目立つように刻まれたことも注意されます。また、下の写真で分かるように岩座型の場合、歯や舌のようなものが追加で表現されています。これを見ると蓮華座型が先に製作された後、岩座型が作られたことをある程度推測できます。

ところで、蓮華座型の蓮弁は岩座型の岩や波のような文様に変わっていますが、その痕跡と推測されている部分が数カ所確認できます。下の写真のように2点の塼に見られる類似性は非常に微細であるため偶然に生じた可能性もあります。しかし、蓮華座型と岩座型が互いに同笵関係にあるか、蓮華座型から岩座型に改笵したものであるという点を共に考慮すると、このような痕跡は塼の型を改笵する過程で偶然残ったと見るのが妥当でしょう。

鬼面文塼に表現された怪獣の口の比較(左・蓮華座型、右・岩座型)

鬼面文塼に表現された怪獣の口の比較(左・蓮華座型、右・岩座型)

岩座型鬼面文塼に見られる蓮弁の痕跡(左・蓮華座型、右・岩座型)

岩座型鬼面文塼に見られる蓮弁の痕跡(左・蓮華座型、右・岩座型)

では、蓮華座型の鬼面文塼を岩座型に改笵した理由は何だったのでしょうか?詳細を知ることができませんが、鬼神が踏んでいる世界の差、つまり蓮華文様に象徴される仏教的な世界が何らかの理由で奇岩怪石に象徴される神仙世界に変わる必要があったか、あるいは追加的にそれを作らなければならなかったためではないかと推定することができます。どちらかの見解が合っているのかは分かりませんが、その上で威勢よく胸を張っている鬼神や怪獣は神仙世界に住む神聖な動物であったことは間違いないでしょう。

怪獣は龍を表現したのだろうか?

では、鬼面文塼に見られる奇怪な姿の怪獣は何を表現したのでしょうか?韓国の古代瓦の中で屋根の軒先部分を飾る瓦のうち鬼面瓦と呼ばれるものがありますが、一部ではそれを鬼面瓦ではなく龍面瓦と呼ぶべきだという主張があります。このような点でこの文様も鬼神ではなく龍の姿をあらわしたという側面からの検討が必要です。

蔚山農所面中山里から出土した統一新羅時代の文様塼の場合、一方の面から見ると龍の顔が表現されていますが、隅に表現されたもう一つの龍の顔をつなぎ合わせてみると、私たちがよく言う鬼面になります。したがって、これまで鬼面瓦で鬼神と呼んできたものも鬼神ではなく龍を表現したものと見なければならないという主張が提起されています。

 統一新羅時代の文様塼

統一新羅時代の文様塼

ところで、扶余外里から出土した文様塼の中には、今説明している鬼面文塼以外にも前述した龍文塼も一緒に発見されています。そして、この蟠龍文塼の龍と鬼面文塼の文様は全く異なる姿をしています。そのような点でこの文様を龍文と見なす主張は受け入れることが難しいと思われます。中国古代の青銅器によく表現される「饕餮」である可能性もありますが、ひとまず怪獣の姿をした鬼神という意味で鬼面文と呼ぶのが適切だと言えます。